アイコンとしてのカエル②

「ガマ」について
日本の江戸末期に流行した、読本・合巻といった伝奇小説によっておなじみ
となった蝦蟇の仙人、蝦蟇の妖術ですが、これらの発想はどこからきたのでし
ょう?
蝦蟇の妖術は、中国の蝦蟇仙人に着想を得た近松門左衛門が、浄瑠璃『傾城
島原蛙合戦』で用いたのに始まるとされています。 それについて、たとえば
須永朝彦は、蝦蟇の妖術について、伝承や説話、俗信などとの関連性の低さ、
その創作の占める割合の多さについて以下のように指摘しています。
蛇・蜘蛛・鼠などの妖術は未だに民俗の根に繋がるところ少なしとせぬが、蝦蟇の
妖術にはそれが稀薄であり、新参の臭いがする。ついでに言えば、蛇の妖術など
は、蝦蟇の妖術が登場した後に、〈蛇は蛙の天敵〉とする民俗伝承に則って、後追い
の形で出てきたかの如くである。
このように考えると、蝦蟇の妖術は、日本における神話・伝説・伝承・俗信
に由来するような動物(あるいは生き物)の超常性・神秘性の発揮からはある
程度自由な描写が可能であった、と思われます。
中国における蝦蟇の神話・伝承に対して、日本では蛙は、地域的な信仰にお
いて、田の神や水に結び付くこともある生物ではあります。
さらに、蝦蟇に対する神秘的な期待は日本にも存在しています。その代表的
な存在は、四六の蝦蟇、筑波山の蝦蟇の油でしょう。四六の蝦蟇とは、つまり
は普通の蝦蟇なのですが、蝦蟇の油売りの口上では特別な蝦蟇とされています
。ですが、蝦蟇の油売りの口上には、薬効以外に刃物に塗ると切れ味を止める
という特徴的な効果協調されていますね?これは、蝦蟇の薬効そのものとは無
関係で「蝦蟇によって兵を避ける」と『山海経』等にそのような記述があるた
め、と考えられるので、これは結局中国由来の蝦蟇信仰の一形態と言えるでし
ょう。
このように、蛙・蝦蟇に対する伝承等は日中ともに存在していましたが、中
国では特別な蛙や蝦蟇は道教的世界観の一部として機能していったのに対し、
日本では特別な蛙や蝦蟇は文芸世界の存在となっていったのです。
中島慧
主な参考文献
須永朝彦訳『報仇奇談自来也説話/近世怪談霜夜星』現代語訳・江戸の伝奇小
説⑤、国書刊行会、二〇〇三年。