「忍者キャラクター」の原型たち③

猿飛佐助―「正義」の忍者の完成
現在、忍者の代表格とされるのは猿飛佐助でしょうが、猿飛佐助はジライヤ
から誕生したキャラクターです。「悪の主人公」としてスタートしたジライヤ
が物語進行の都合上、「なし崩し的に」正しくなるのに対して、猿飛佐助は最
初から「正義の主人公」として存在する忍者キャラクターです。
猿飛佐助は『立川文庫』という子ども向けジャンルの中で生まれました。ジ
ライヤとは異なり、最初から子どものために作られたキャラクターだったので
す。よって、その属性は子ども向け読物の主人公に相応しく「善」「正義」で
なければいけませんでした。そのために、猿飛佐助の物語には読者の(子ども
の)「正義感」と矛盾しないような「正統性」が与えられ、かつ猿飛佐助は「
善」で「正義」に相応しい内面を持つ主人公である、といったことが分かるよ
うな描写が繰り返されます。佐藤忠男によれば、猿飛佐助は子どもに大人気だ
ったジライヤから、盗賊などといった子どもに相応しくないとされる要素を抜
いて作り出された正義の士、「お子様向け改良版」ジライヤである、とのこと
です。佐藤は、猿飛佐助を誕生させたのは松之助と同時代に非常に人気のあっ
た大衆児童文化である立川文庫とそれに追随した小型の児童向け講談本である
としながら、『猿飛佐助』とその多くのバリエーションを生んだ立川文庫とそ
の亜流が、尾上松之助や澤村四郎五郎の映画化との相乗効果で1920年前後に児
童大衆文化の主流になった、と結論しています。
主君への忠義を大切にする猿飛佐助は、武士的なキャラクターに「忍術」を
プラスした存在として、それまでの後ろ暗い「忍び」や「忍術使い」とは大き
く異なる新しい「正義の忍者」というキャラクター形成を成功させました。
そして、この「正義の忍者」という概念により、架空の、子ども向けジャン
ル発祥のキャラクターであるにも関わらず猿飛佐助は、長い間忍者ものの中心
で生き残ってこられた、と考えられるのではないでしょうか。なぜなら、忍術
(妖術)の使用にキャラクターの個性の大部分を依存する「ジライヤ」とは異
なり、猿飛佐助は、猿飛佐助的な要素例えば「武士」「忠義」「正義」などの
要素を持たせれば、ストーリーの方向性に関わらず「忍者キャラ」として登場
させることができたからです。
中島慧
主な参考文献
『忍者と忍術―闇に潜んだ異能者の虚と実』歴史群像シリーズ71、学研、2003
年。
吉丸雄哉「猿飛佐助と忍者像の変容」『忍者の誕生』勉誠出版、2017年。
佐藤忠男『増補版 日本映画史Ⅰ』岩波書店、2006年。